会社員時代「パワハラ」の当事者、被害者の両方を経験しました。自分の任されたお店に対しての責任感の強さから、20代から30代の前半の頃、部下に対し日々厳しい言葉や態度で接していました。当時の私を知る部下は「いつも怒っていて、笑った顔を見た印象がない」。今振り返ると重職からくるプレッシャーで、精神的に追い込まれていたと思います。周りの先輩や上司からは「職場（仕事）で、叱責や厳しい言葉を掛けられることは”期待している証拠”」という根拠のない定説を信じ、私自身がパワハラの当事者になっているなど疑問さえ思いませんでした。昭和生まれの方なら、それは当たり前の時代だったからかも知れません。パワハラの当事者は、その分別さえつけることができないからです。そんな私が「パワハラの被害者」になった時、やっとそれが「相手の気持ちを傷つけているということ」に気づくことが出来ました。
　それは、ちょうど2000年（ミレニアムイヤー）を迎えた頃、飲食店から次の飲食店への転職が決まり、退職の３か月前に上司に退職届を出し、退職日まで手を抜かないよう仕事に邁進しておりました。退職日まであと10日にせまったランチタイムの営業が終わり、上司と電話をしていた時。ある会話の流れから「加藤。退職も近いから、どうせやる気ないだろう？」と。もしかしたら、今この文章を読んでいただいているあなたも、部下の退職日が近づいていたら、心の中で同じことを思われるかも知れません。上司から予期せぬ言葉を言われ、私の中で『３か月で「お店を立て直せ！」との指示を受け異動し、この３か月間で売上（前年対比120％）を上げたにも私に対して「どうせ・・・？」』　その電話を最後に、退職までの10日間を待たずして、即日会社を辞めました。悔しいと思った反面、上司が日々そう思っていたことに対して怒りなかったからです。

このような経験をしてきたからこそ、「どんな言葉を発したら、部下のやる気を奪ってしまうのか？」「もし〇〇のような状況になったら、□□で対処してください」といった的確なアドバイスが行えるのは、加害者と被害者の双方を経験してきたからこそです。社員が退職届を出してくるのには「辞めたい理由」があります。仕事に対してやる気が起きない社員には「直接社長や上司に言え（相談でき）ない理由」があるのです。